新しいタンス、ベッド、ソファ、収納棚などを置いてから、部屋のにおいが強くなった。このとき、「ホルムアルデヒドだけ測ればよいのか」「家具そのものを検査すべきか」と迷う方がいます。
結論からいうと、最初に決めるべきなのは、現在の部屋で吸っている空気を調べたいのか、家具が発生源であることを確かめたいのかです。
実際の生活環境を確認するなら室内空気を測定します。家具単体の放散特性を調べるなら、試験チャンバーを使った放散試験を検討します。
この二つは得られる数値の意味が異なります。目的を決めずに測定すると、VOCが検出されても家具由来か判断できず、返品、換気、移動、追加調査といった次の行動につながらないことがあります。
家具のにおいとVOC濃度は同じではありません
VOCは、揮発性有機化合物の総称です。家具に使われる木質材料、接着剤、塗料、表面加工剤、樹脂、クッション材などから、さまざまなVOCやアルデヒド類が放散する可能性があります。
ただし、においが強いほど健康影響が大きい、あるいはVOC濃度が高いとは限りません。物質によって、人がにおいを感じ始める濃度や刺激性が異なるためです。
反対に、においが弱くても、測定対象とした化学物質が室内に存在する場合があります。嗅覚だけで室内空気の状態を判断することはできません。
分析で化学物質が検出されても、その物質が感じているにおいや体調変化の原因だと直ちに断定はできません。分析は医療診断ではなく、室内環境を客観的に確認するための手段です。
家具を調べる前に記録しておきたい情報
測定を依頼する前に、家具と部屋の状況を整理します。
- 家具の商品名、メーカー、購入日、設置日
- 新品、中古品、展示品の別
- 材質、塗装、接着剤などの商品表示
- 組み立て式か完成品か
- 開梱から測定までの日数
- 家具を置いた部屋の広さ
- 24時間換気設備の運転状況
- 窓開け換気の時間と頻度
- においを感じ始めた時期と場所
- 同時期に持ち込んだカーテン、カーペット、寝具、家電など
家具の扉や引き出しを開けたときだけにおうのか、部屋全体で感じるのかも重要です。収納内部に成分が滞留している場合と、室内全体へ放散している場合では、適した採取位置が異なります。
購入時のウェブページ、商品表示、取扱説明書、納品書、家具と部屋の写真も保存しておくと、メーカーや販売店へ相談する際の資料になります。
F☆☆☆☆でも室内濃度が低いとは限りません
家具の商品説明に「F☆☆☆☆」と表示されている場合があります。これは、合板、MDF、パーティクルボードなど、対象となる材料のホルムアルデヒド放散等級に関係する表示です。
F☆☆☆☆は、完成した家具全体からVOCが放散しないことや、設置後の室内濃度が必ず指針値以下になることを保証する表示ではありません。
家具には複数の材料、接着剤、塗料、樹脂部品などが使用されます。室内濃度は、家具の大きさ、設置数、部屋の容積、温湿度、換気量などにも左右されます。
東京都が2011年に実施した収納家具30検体の商品テストでは、家具を試験室へ設置した1日後に、6検体でホルムアルデヒド濃度が当時および現在の室内濃度指針値0.08ppmを上回りました。ただし、これは当時選定された製品の調査結果であり、現在販売される家具全体の超過割合を示すものではありません。
室内空気測定と家具放散試験の違い
| 知りたいこと | 適した方法 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 現在の部屋でどのようなVOCを吸っているか | 室内空気の24時間測定 | 家具以外の建材、日用品、屋外空気の影響も含まれる |
| 指針値へ厳密に適合しているか | 厚生労働省マニュアルに沿った標準測定 | 換気、密閉時間、採取時間などの条件管理が必要 |
| 家具を置いた部屋だけ濃度が高いか | 家具設置室と比較室の同時測定 | 部屋の広さ、温湿度、換気条件をそろえる |
| 家具単体から何が放散するか | 家具または部材のチャンバー試験 | 室内濃度ではなく、主に放散速度を評価する |
| 家具を移動した後に濃度が下がったか | 移動前後の室内空気測定 | 測定条件が異なると家具の効果だけを評価できない |
居住中の実態を知りたい場合、厚生労働省の室内空気中化学物質の測定マニュアル(統合版)では、通常の生活条件における24時間測定が示されています。
一方、指針値への厳密な適否判定や最大濃度の推定を目的とする場合は、同マニュアルに沿って換気、密閉時間、採取時間などを管理します。日常状態での測定結果と、条件を管理した標準測定の結果は、同じ目的の数値として単純比較できません。
VOCとホルムアルデヒドは別々に依頼します
家具の調査では、VOCだけを測定しても、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドが分析項目に含まれない場合があります。
一般的なVOCは吸着剤へ捕集してGC/MSなどで分析します。一方、ホルムアルデヒドなどのカルボニル化合物は、DNPHカートリッジへ捕集してHPLCで分析する方法などが用いられます。
家具の素材や困りごとに応じて、次の組み合わせを検討します。
- TVOCによる室内空気の全体的な状態の把握
- 主要VOCの定性・定量
- トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンなどの個別測定
- ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類
ホルムアルデヒドの室内濃度指針値は100µg/m³、温度25℃換算で0.08ppmです。TVOCには400µg/m³という暫定目標値があります。
ただし、TVOC暫定目標値は個々の物質の毒性を合算して設定した基準ではありません。TVOCが400µg/m³を超えたことだけで健康被害が生じるとは判断できず、400µg/m³以下であっても絶対的な安全を保証するものではありません。
家具が発生源か確かめる比較設計
家具由来の可能性を検討するには、一つの測定値より比較が有効です。
家具を置いた部屋と比較室を同時に測る
家具を設置した部屋と、家具を置いていない別の部屋を同じ日に測定します。温度、換気、芳香剤などの条件をできるだけそろえ、検出成分の種類と濃度を比較します。
家具設置室で特定成分が高くても、家具由来と確定するわけではありません。しかし、発生源候補を絞る手掛かりになります。
家具の移動前後を比べる
移動前と移動後に同じ部屋を測定する方法もあります。家具を移動した直後は、室内やほかの材料に吸着していた成分が残る可能性があるため、測定時期をあらかじめ設計します。
前後で季節、室温、換気量が変わると、家具を移動した効果と環境条件の違いを分けられません。記録を残し、可能な限り同じ条件で測定します。
家具単体をチャンバーで測る
発生源を家具単体で評価したい場合は、管理された温湿度と換気条件で放散量を測る試験チャンバーを使用します。
ISO 16000-9:2024は、建築製品や家具類の試料から放散するVOCを、試験チャンバーで測定する一般的な方法を規定しています。
完成家具をそのまま調べる場合は大形チャンバー、切り出した部材を調べる場合は小形チャンバーが候補になります。家具を切り出すと、通常は露出しない切断面から成分が放散する可能性があるため、試験体の作り方が重要です。
測定で分かること・分からないこと
測定で分かること
- 採取時の室内に存在した測定対象物質と濃度
- TVOCの全体的な水準と主要成分
- 室内濃度指針値や暫定目標値との比較
- 条件をそろえた場合の部屋間・移動前後の違い
- チャンバー試験を行った場合の家具または部材の放散特性
測定だけでは分からないこと
- 検出成分がにおいの唯一の原因か
- 検出成分が体調変化の原因か
- 室内空気の成分がすべて家具から放散したものか
- 一回の測定値から将来の濃度がどう変化するか
- 分析対象外の物質が存在しないか
「不検出」は、その分析方法の検出下限または定量下限を下回ったという意味です。化学物質が完全に存在しないことや、においの原因物質がないことを証明する表現ではありません。
新しい家具のVOC測定でよくある失敗
- ホルムアルデヒドも一般的なVOC分析に含まれると思い込む
- 家具の商品名、設置日、材質を記録していない
- 測定直前だけ長時間換気し、普段の状態を評価できなくなる
- 室温や換気条件が違う測定結果を比較する
- TVOCだけで家具が原因だと断定する
- 簡易センサーの数値を、厚生労働省指針値への適否判定に使う
- F☆☆☆☆であれば、すべてのVOCが低いと判断する
- 体調への対応を、分析結果が出るまで待つ
強い刺激や急な体調変化がある場合は、測定のために家具や部屋の状態を保存することより、部屋を離れる、換気する、医療機関へ相談するなどの対応を優先してください。
CTM研究コンサルへ相談する価値
CTM研究コンサルでは、農学博士・分析化学研究者の石坂閣啓が、現在の困りごとと、分析後に判断したいことを整理します。
日常生活中の室内空気を測るのか、指針値への厳密な適否を確認するのか、家具単体の放散量を調べるのか。目的に合わせて、試料、測定項目、採取場所、測定条件、必要な定量下限を設計します。
完成家具の大形チャンバー試験など、専用設備が必要な場合は、家具の大きさ、材質、試験目的を確認したうえで、対応可能な高度分析機関への橋渡しを検討します。
分析後は、数値の意味、家具由来と考える根拠の強さ、測定の限界、換気・移動・再測定などの次の行動を平易に解説します。
よくある質問
家具を購入してから何日後に測ればよいですか?
一律の日数はありません。現在の生活環境を知りたい場合は、実際に使用している状態で測定します。濃度の減衰を確認したい場合は、設置からの日数、温湿度、換気条件を記録し、同じ条件で再測定します。
においがする家具のすぐ近くで測ればよいですか?
家具の近くでは局所的に高い濃度になる可能性があります。居住者が通常吸う空気を評価する場合は、部屋の代表的な位置で測定します。家具内部や近傍を調べたい場合は、室内代表濃度とは別の目的として採取位置を設計します。
TVOC測定だけで十分ですか?
全体的なVOCの状態を把握するスクリーニングには役立ちますが、ホルムアルデヒドは別測定になる場合があります。家具の材質、におい、商品情報を確認し、アルデヒド類や個別VOCを追加するか判断します。
家具メーカーや販売店へ提出する資料に使えますか?
使用目的を分析前にお知らせください。第三者への提出や契約上の協議に使用する場合は、測定方法、採取条件、試料の識別、写真、報告書の形式などを事前に整える必要があります。測定結果だけで製品の法的な欠陥や責任を確定できるとは限りません。
家具を移動・処分する前に、測定目的を整理しませんか
「家具を置いてからにおいが強くなったが、何を測ればよいか分からない」という段階からご相談いただけます。
実際の生活環境を調べる場合は、エアみる法による室内空気測定をご覧ください。家具や部材の放散特性を調べたい場合は、建材・塗料のVOC放散試験を基に、適用可能な試験方法を検討します。
対応サービスの全体像は、分析サービス一覧でご確認いただけます。
お問い合わせフォームから、家具の商品名、設置日、部屋の広さ、においを感じる場所、分析後に判断したいことをお知らせください。家具を移動したり試料を切り出したりする前に、目的に合う測定設計を整理します。
参考資料
- 厚生労働省「シックハウス対策」
- 厚生労働省「室内空気中化学物質の測定マニュアル(統合版)」2025年1月17日
- 厚生労働省「TVOC暫定目標値について」
- 東京都「家具から放散される有害物質」
- ISO 16000-9:2024:建築製品・家具類からのVOC放散を測定する試験チャンバー法
- CTM研究コンサル「エアみる法による室内空気測定」
- CTM研究コンサル「建材・塗料のVOC放散試験」
本記事は2026年9月29日時点の公開情報に基づいています。測定項目、採取条件、定量下限、家具単体の試験可否は、製品仕様と分析目的を確認したうえで個別に決定します。