工場の最終排水からPFOSやPFOAが検出されたとき、「直ちに法令違反になるのか」「どの工程を追加測定すればよいのか」と判断に迷うことがあります。
結論からいうと、最終排水をもう一度測るだけでは、発生源や対策箇所を特定できません。
原水、工程別排水、排水処理設備の流入水・処理水、最終排水を関連付けて採取し、濃度と水量の両方を比較することが重要です。
また、国内の50ng/Lという値は、PFOSとPFOAについて水道水や公共用水域・地下水に設定されたものです。工場排水へそのまま適用される全国一律の排水基準ではありません。
最初に確認したいPFASの法的位置付け
2026年4月1日から、水道水にはPFOSとPFOAの合計で50ng/L以下という水質基準が適用されています。公共用水域と地下水についても、両物質の合計50ng/Lが指針値として設定されています。
一方、PFOS・PFOAについては、現在のところ水質汚濁防止法に基づく全国一律の排水基準は設定されていません。大阪府も、同法および府条例に基づく排水基準は設定されていないと説明しています。
したがって、工場排水が50ng/Lを超えたという事実だけで、直ちに水質汚濁防止法上の排水基準違反とは判断できません。
ただし、自治体の条例、下水道への受入条件、排水協定、取引先の要求、許認可条件などが別に定められている可能性があります。放流先が河川等か下水道かも含め、所管自治体や下水道管理者へ確認してください。
また、PFOS、PFOAおよびそれらの塩は、2023年2月1日から水質汚濁防止法の「指定物質」です。
対象となる施設の事故によって指定物質を含む水が公共用水域へ排出され、または地下へ浸透し、人の健康や生活環境に被害が生じるおそれがある場合には、応急措置と都道府県知事等への届出が必要です。
「全国一律の排水基準がない」ことと、「管理や届出が不要である」ことは同じではありません。通常時の排水管理と事故時の法的対応を分けて確認します。
この記事が対象とする工場
次のような状況では、測定地点を設計したPFAS調査を検討する価値があります。
- 自主分析で最終排水からPFOS・PFOAが検出された
- 自治体や取引先から排水中PFASの確認を求められた
- 泡消火薬剤、表面処理剤、フッ素系材料などの使用履歴がある
- 過去に使用した薬剤や設備からの残留が疑われる
- 活性炭などの処理設備を導入し、処理効果を確認したい
- PFOS・PFOA以外のPFASも含めて排出状況を把握したい
原材料にPFASの表示がない場合でも、加工助剤、不純物、過去に使用した薬剤、受入水、消火設備などが関係する可能性があります。
ただし、排水からPFASが検出されたという結果だけで、特定の製品や工程を発生源と断定することはできません。
発生源を調べるための採水地点
| 採水地点 | 主な目的 | 結果を見る際の注意 |
|---|---|---|
| 工場へ入る原水・工業用水 | 工場外から流入するPFASの有無を確認する | 原水濃度を測らないと、工場内で増えた量を評価しにくい |
| PFASの使用履歴がある工程の排水 | 発生源候補を絞る | 洗浄やバッチ運転の時間によって濃度が変わる |
| 排水処理設備の流入水 | 処理前の濃度と成分組成を把握する | 複数工程が混合すると個別の発生源は分かりにくい |
| 排水処理設備の処理水 | 処理前後の濃度差を確認する | 採水時刻と設備内の滞留時間を考慮する |
| 最終排水口 | 実際に放流される水を確認する | 最終排水だけでは工場内の発生箇所を特定できない |
| 活性炭・汚泥・廃液 | 処理に伴うPFASの移行先を確認する | 水試料とは異なる前処理や分析方法が必要になる |
発生源調査では、できるだけ同じ操業日に関連する地点を採水します。
工程排水と最終排水の採水時刻を単純にそろえるだけでなく、配管、調整槽、処理槽における水の滞留時間も確認してください。
たとえば、工程排水が最終排水口へ到達するまでに数時間かかる場合、同時刻に採取した二つの水は、同じ排水を比較していない可能性があります。
また、流量が大きく異なる排水を濃度だけで比較すると、最終排水への寄与を見誤ることがあります。濃度と流量から排出負荷量を算出すると、対策すべき工程を判断しやすくなります。
PFOS・PFOAの2項目と多項目分析の選び方
PFOS・PFOAの状況確認なら2項目
公共用水域や地下水の行政調査との比較、PFOS・PFOAが検出された事実の確認が目的であれば、まず2項目分析が候補になります。
ただし、工場排水中の50ng/Lは全国一律の排水基準ではありません。結果は、放流先の公共用水域における指針値、自治体の要求、排水協定、社内管理値などと目的を区別して評価します。
発生源や代替物質まで調べるなら多項目分析
現在使用している薬剤、代替PFAS、工程ごとの成分組成の違いを調べる場合は、複数のPFASを対象とした一斉分析を検討します。
分析方法については、測定目的に応じて選択します。国内では、工業用水・工場排水中のPFOS・PFOA(直鎖異性体)の測定方法として、JIS K 0450-70-10が規定されています。一方、代替PFASを含む多項目分析では、ISO 21675や米国EPA Method 1633Aなどを参考に、対象物質や試料の性状に応じた分析方法を検討します。なお、規格ごとに測定対象物質や適用範囲が異なるため、使用する分析方法と対応可能な物質を分析機関に確認する必要があります。
ただし、適用できる方法は、浮遊物質量、塩類、有機物、油分などの試料性状によって変わります。対象物質、前処理方法、定量下限を分析前に確認する必要があります。
多項目分析で測定できるのは、あらかじめ分析対象としたPFASです。「不検出」であっても、すべてのPFASが存在しないことを意味しません。
採水前に分析機関と決める条件
- 分析目的と結果の使用先
- 測定対象物質と必要な定量下限
- 採水地点、採水日時、操業条件
- スポット採水か、時間・流量を考慮した混合試料か
- 採水容器、採水量、保存温度、輸送方法
- 原水、試薬水、未使用容器などのブランク試料
- 流量、処理設備の運転状態、活性炭等の交換日の記録
PFASはng/L単位の極めて低い濃度を測定するため、容器、採水器具、チューブ、保護具などからの混入が結果へ影響する可能性があります。
一般の空き容器を流用せず、分析機関が指定または提供する専用容器を使用してください。自動採水器を使用する場合も、接液部材と洗浄方法を事前に確認します。
米国環境保護庁は、排水のPFAS採取時における汚染の有無を確認する方法として、フィールドブランクの使用を推奨しています。
フィールドブランクとは、分析機関が用意したPFASを含まない水を採水現場で容器へ移し替え、実試料と同じように保存・輸送する試料です。採水作業や現場環境からPFASが混入していないかを確認するために用います。
分析で分かること・分からないこと
分析で分かること
- 採取した排水に分析対象のPFASが含まれているか
- 対象PFASごとの濃度と成分組成
- 条件をそろえた場合の工程間・処理前後の濃度差
- 流量情報がある場合の排出負荷量
- 活性炭交換などの対策前後における変化
分析だけでは分からないこと
- 一回の測定値が年間の排出状況を代表するか
- 検出されたPFASが特定の製品や設備だけに由来するか
- 分析対象外のPFASが存在しないか
- 処理によってPFASが分解したのか、別の媒体へ移ったのか
- 検出値だけから法令違反や健康被害が成立するか
処理前後で水中濃度が下がっても、活性炭、汚泥、廃液などへPFASが移行した可能性があります。
水中濃度の低下を、そのままPFASの分解や消失と解釈することはできません。使用済み吸着材や汚泥などの管理も含めて考える必要があります。
分析結果は濃度だけで判断しない
濃度と負荷量を分けて考える
高濃度でも排水量が少ない工程と、低濃度でも排水量が多い工程では、最終排水への寄与が異なります。
対策の優先順位を決める場合は、ng/Lなどで示される濃度だけでなく、各工程の排水量を用いて負荷量を比較します。
処理前後は同じ水を追跡する
処理設備の流入水と処理水を比較する場合は、設備内の滞留時間を考慮します。午前中の流入水に対応する処理水が午後に排出される設備で、同時刻の二試料を比較しても、正しい除去率にならない可能性があります。
定量下限を確認する
結果が「不検出」であっても、報告書の定量下限が調査目的より高ければ、目的の濃度以下であることを確認できません。
たとえば、10ng/L以下を確認したい調査で定量下限が20ng/Lであれば、「不検出」という結果から10ng/L以下とは判断できません。
工場排水のPFAS分析でよくある失敗
- 最終排水だけを測り、原水や工程排水を測らない
- 50ng/Lを全国一律の排水基準だと誤解する
- 操業中と停止中の結果を同じ条件として比較する
- 濃度だけを比較し、各工程の排水量を記録しない
- 処理前後の採水で設備内の滞留時間を考慮しない
- 一般の採水容器や器具を自己判断で使用する
- フィールドブランクを用意せず、採水時の混入を確認できない
- PFOS・PFOAの不検出を「全PFASなし」と判断する
- 検出成分の組成だけで発生源を断定する
CTM研究コンサルへ相談する価値
CTM研究コンサルでは、農学博士・分析化学研究者の石坂閣啓が、最初に排水経路、原材料、過去の使用履歴、処理設備、分析後に判断したいことを整理します。
そのうえで、PFOS・PFOAの2項目でよいのか、多項目分析が必要か、どの地点をどのタイミングで採水するか、どの程度の定量下限が必要かを設計します。
試料の性状、対象物質、必要な定量下限を整理し、目的に合った高度な環境分析技術を持つ分析機関へ橋渡しします。
分析項目、分析方法、試料数、納期、費用については、排水の性状と調査目的を確認したうえで個別にご案内します。
分析後は、濃度と負荷量の違い、結果から発生源候補について言える範囲、追加測定や処理対策の優先順位を平易に解説します。
法令、条例、事故時の届出などについて個別の法的判断が必要な場合は、所管自治体や環境法務に詳しい専門家への確認もご案内します。
よくある質問
工場排水が50ng/Lを超えたら違法ですか?
50ng/Lは、水道水の水質基準および公共用水域・地下水における指針値です。PFOS・PFOAについて、同じ数値の全国一律排水基準は設定されていません。
ただし、自治体条例、下水道受入条件、排水協定、許認可条件などは別途確認する必要があります。
最終排水を1検体測れば十分ですか?
採取時点の最終排水濃度を確認するスクリーニングには使えますが、発生源や処理効果までは分かりません。
発生源を調べる場合は、原水、工程排水、処理設備の流入水・処理水を比較します。
PFOS・PFOA以外も測るべきですか?
PFOS・PFOAの状況確認だけであれば、2項目分析が基本的な候補です。
代替物質の使用、発生源調査、将来の管理を目的とする場合は、原材料情報やSDS、過去の使用履歴を確認して多項目分析を検討します。
排水処理設備の除去率を確認できますか?
処理設備の流入水と処理水を、滞留時間を考慮して採取すれば比較できます。
ただし、流入濃度が定量下限に近い場合、処理中に排水条件が変化した場合、採水した水が前後で対応していない場合は、除去率を適切に算出できないことがあります。
採水した水を先に送ってもよいですか?
自己判断で採水する前にご相談ください。PFAS分析では、容器、採水器具、保存条件、輸送方法が結果へ影響する可能性があります。
分析目的と採水地点を整理したうえで、指定された容器と手順を使用してください。
採水する前に、排水経路と調査目的を整理しませんか
工場排水のPFAS分析は、排水口から水を1本採るだけでは、具体的な対策へつながらないことがあります。
放流先、排水経路、原水、PFASの使用履歴、処理設備、分析後に決めたいことを整理したうえで、採水地点と分析項目を決めることが重要です。
お問い合わせフォームでは、「排水からPFASが検出されたが、次にどこを測ればよいか分からない」という段階から相談できます。
採水前に、分析の目的、試料、測定地点、分析項目、定量下限を一緒に整理します。
参考資料
- 環境省「水質基準に関する省令の一部を改正する省令」等の公布について
- 環境省「水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令」の閣議決定について
- 環境省「指定物質に関するQ&A」
- 環境省「有機フッ素化合物(PFAS)について」
- 大阪府「有機フッ素化合物(PFOA等)」
- ISO 21675:2019「水中PFASのLC-MS/MSによる測定」
- U.S. EPA「Method 1633Aによる排水等のPFAS分析」
- CTM研究コンサル「PFAS分析」
- CTM研究コンサル「分析サービス」
本記事は2026年10月13日時点の公開情報に基づいています。適用される法令、条例、下水道受入条件、分析項目、定量下限、分析可否は、事業場と試料の状況を確認したうえで個別に判断します。